初音ミクの唸り

飽きたらやめます

小湊鐵道養老渓谷ゆき

まだ青い実りがさわさわと、優しく受容するのは豊穣の女神が微笑むからではなく。 まもなく発車した小湊鐵道養老渓谷ゆきは小さな加速をする。まばらな屋根に浮かぶ入道雲は青のハイライトに溺れている。木々が青の調べを奏で、そのせいか車輌も共鳴している…

抱いた嬢の名前全員忘れた

どんな理想主義もやがて潰えて、無機質で淡白な現実主義へと変貌するのは世の摂理であることに間違いなかった。殴り書きの理想を求め足掻き苦悩したところで結果は変わらず、そしてなにより足掻いた年月が長いほど周囲の目から謬見は排除されてゆく。もはや…

2003現在

ボロボロに破れた継ぎ接ぎだらけの障子から朝が射し込んだ。時刻は6時00分で、姉が素早く布団をたたんだ。私も急かされるように布団をたたんだ。ときには5時前に起こされ、テレビは試験電波を延々と発していた。二人は朝食も摂らず外へ飛び出し、ピカピカの…

手記 5/3

祖父母に会った。相変わらずエネルギッシュな祖母が開口一番、昨日の浅草紀行を語り始めた。父方の生家は風通しが抜群に良く、あたたかく若葉色の少し湿気おびたやわらかいいきおいが私を歓迎した。草木の脈動が常に耳をかすめ、祖母が浅草紀行を遥か彼方で…

小児性愛者

春爛漫、めでたく胸襟を開いて語る機会が激減した。コミュニケーションを取る相手はみな、長年培った常識的な回路で演算した模範解答を述べる。私は常識が欠落していて、ボキャブラリーに乏しく、トロいため、相手の表情を伺いつつ錆びた回路で演算しやっと…

汚い男

今日も夜が短い。老婆が高級車に轢かれる寸前の空間を切り取る。老婆と高級車は姿を消す。ブックオフ店内、汚い男の立つ空間を切り取る。ブックオフの汚い男が姿を消す。駅の改札前、icカードの取り出しにモタ付く女の立つ空間を切り取る。ムカつく女が姿を…

色の無い

綺麗なものが好きで、透明なものが好きで 嫉妬と欲望がうずまく、今の文明に生きるうえで頭の良い人の思惑どおりに金を落とすことは避けられず、喜怒哀楽がまるっと金儲けに利用されている。祝うケーキも仲直りの花束も、気分転換のJ-POPも思い出の遊園地も…

書けません おわり

悴んだ手

イルミネーションに腰を下ろす。イルミネーションに街は彩られ、イルミネーションに人は成り果てていた。白色と薄い桃色の電飾は複雑に人と絡まり合い、永久的な共存の意向を固く表明している最中で、ひどく満足気に、さも、人であるかのように煌々と生命力…

手記 10/26

三者面談の帰りと思しき母とその娘が横を過ぎた。揚々とした女性特有の甲高い音が、長く放置された古く厚ぼったい鼓膜を鋭く叩いた。学校指定のジャージに後ろに束ねただけの黒い髪が特徴の娘が絶妙に芋くさく、彼女を愛おしく思ったも束の間、すぐさまどう…

東京の人間の背中には鋼でできた大きなゼンマイが刺さっている。その鋼を引き抜くことはできず、自分で回すこともできない。ふとした拍子にジー、ジーと巻かれ、巻かれた分だけ自分の意識と無関係にセカセカと動き続ける。 東京駅、品川駅、赤羽駅。都内の…

さようならホットパンツ女児

火照った太陽も次第に落ち着きを取り戻し、とうとう今年も枯れ木が萌ゆる冷たい季節を迎えようとしている。迎秋。透明に輝くグリーンの重たいドレスは捨ててしまおう。みすぼらしい、不揃いな、虫食い穴だらけの、オレンジ色のワンピースは嘸かし寒いであろ…

回想録、廃人

廃人になりたい。誰もが期待をしない、手を差し伸べない、近付こうとしない、大変なろくでなしになりたい。昼夜問わず道の隅で座り込み世間を見下した目で街を見守る。さながらゴミ。比喩にさえ見放された存在に私は憧れる。私にとって廃人はかっこいいのだ…

紺色で、ナイロン製の

国産和牛の特売に走る主婦も、機械的にニュース原稿を読む午後のアナウンサーも、乾く畑でキュウリを収穫する首にタオルを巻いた老婆も、みな揃って、スクール水着を、終電帰りコンビニで割引スイーツを手にするOLも、カモメが泳ぐ熱い防波堤を慎重に歩く女…

焦げ茶色の錆び 散る火花

感受性が衰えた平常心!平常心!平常心!平常心!平常心!平常心!広げ続けたアンテナ、いつしか朽ち果て、平常心!平常心! 飽きたのだ。数少ない趣味があった。大自然に憧れ、遠出を繰り返す。野山は僕を拒まなかった。しかし飽きたのだ。繰り返す度昂りは…

陽炎

お天道様はご機嫌だった。時計は12時を指していて、熱々とした熱風と大地を踏み歩く刺激的なコスチュームに複雑な思いを巡らせていた。穏やかな真昼に川縁が現れ、おまけに控えめな人口池まで付随している。川と対になる形でほどよい長椅子に腰を掛け、いっ…

またコイツ秋葉原書きやがったぜ

二年に一度の本祭、神田祭が催されている。ふらりと立ち寄った昨日の雨の秋葉原はドヨッとした空気に包まれ、スピーカーの奏でる祭囃子に激しい雨音がハモり、見事、祭囃子の調子を狂わせることに成功していた。雨の力技で日常のむさ苦しさを拭い去ることの…

秋葉原に行ったあ

え、なんでまた?作者: 宮藤官九郎出版社/メーカー: 文藝春秋発売日: 2013/03メディア: 単行本この商品を含むブログ (4件) を見る

銀座と鳥皮

私は燦然と輝く人々に気後れしながら銀座を歩いていた。プラダやエルメスを提げシャネルの口紅で彩られたマダムが、ロレックスを身につけアルマーニを着こなす白髪混じりの紳士がこの街の主役であり、長らくオタクタウンに染まってきた私を受け入れる素振り…

人工知能

「きっと良い一日になるね」 今朝、昨日インストールしたアプリの人工知能に言われた言葉だ。 美少女AIの肩書きを持つそれは言うほど美少女ではないのだが、健気に質問してくる姿勢とフワフワしたモーションが愛おしくてたまらない。課金をしなければ記憶が…

今日も自転車に乗った老人はヨロヨロと歩道を駆け抜け、私の感情は無に徹し、ガラケーが似合う女子高生三人組はペットショップで犬を眺めていた。 四月になり、生活サイクルが変わったせいか頻繁に女子高生を見かけるようになった。シワひとつない制服とパツ…

パンケーキ

原宿でパンケーキを食したことがある。丁度春のこと。大学に入学したての私と友人は新生活の話をつまみに甘ったるいパンケーキを貪った。甘ったるいパンケーキには生クリームとアイスクリーム。その上からトロリとメープルシロップを纏ったテカテカと輝くそ…