初音ミクの唸り

飽きたらやめます

熱(2021/8)

中目黒の坂を目線も定まらないまま下る。歩道橋、横断歩道、信号は無視した。只管酒を煽る。右手に持つ傘は折れ曲がっていた。力のままに、行き場を失った何かが傘を壊した。時折、道端に腰掛け上を見た。気付くと出来たばかりの駅にいた。新幹線で泣き叫び、歌い、意識の狭間でどうしようもなくなった頃新潟に着いた。翌る日、曇天の新潟は私を嗤った。それでもここが好きだった

高校生わたしと

先頭車両のボックス席。生に反射する高校時代の私が物憂げに見つめた先、窓辺に屹立した缶酒越しに日焼けしたホームが遠くなります。二、三のトンネルを抜けた先は末広がりの樹木、枝裾から屋根が見え、移ろう斜線の景色を過ぎたら海原でした。束の間、線路は大きく右に逸れて海に穴が開き、それに列車は吸い込まれました。ぐにゃぐにゃとした空間を抜けると品川駅に着いており、見慣れた月曜を瞼に映しました。目を開くな。きっとまだ国府津駅です

21時

最近は、業務スーパーで売っている500mlで140円しない格安の酒を啜っています。シークワーサー味だそうですが、畳の香りがします。畳。初めて貰った部屋は姉との共同部屋で和室でした。ふと、私の父親が"父親"だったときの暖かい眼差しを思い出しました。もう垣間見ることはできませんが、記憶の中の彼は仕事終わりで家の中をスーツ姿のまま、必死に隠れる私たち姉弟を探してくれていました。