初音ミクの唸り

飽きたらやめます

手記 5/3

祖父母に会った。相変わらずエネルギッシュな祖母が開口一番、昨日の浅草紀行を語り始めた。父方の生家は風通しが抜群に良く、あたたかく若葉色の少し湿気おびたやわらかいいきおいが私を歓迎した。草木の脈動が常に耳をかすめ、祖母が浅草紀行を遥か彼方で囀っていた。ゆっくりと時間が流れた。トンカツ、天ぷら、刺身、煮物、味噌汁。あいにく手料理は煮物と味噌汁に限られたが、これが祖父母の最大限のもてなしであることは変わりなかった。適当な出来和えに心からの舌鼓をし、目に見えるほどの愛情を浴びながら馴染みの味噌汁をひとくち含む。感情が溢れた。プリン、シュークリーム、浅草みやげの人形焼。甘かった。畑は熱を帯びていた。幼少期に駆け回った土土には、夏に向けすくすくと育つ食物の生き生きとしたさまが一面に貼り付けられていて、私を盲にした。蜂が舞っていた蝶が舞っていた。木漏れ日が斑にこぼれ落ち、狂犬と戯れる小さい私の虚像を印象的に照らした。 芝生に咲く健気な花の名前を訊いたが忘れた。めっきり雲に覆われた青かった空に再訪の誓いを捧げた。我が家では温かい料理が私を出迎えた。ふつふつとした何かが一度澄みきった私の全てを覆い尽くすのを感じた。