初音ミクの唸り

飽きたらやめます

  東京の人間の背中には鋼でできた大きなゼンマイが刺さっている。その鋼を引き抜くことはできず、自分で回すこともできない。ふとした拍子にジー、ジーと巻かれ、巻かれた分だけ自分の意識と無関係にセカセカと動き続ける。

 

  東京駅、品川駅、赤羽駅。都内の各県境駅および各主要駅にはゼンマイ課が設けられていて、訪れた人間に見境なく鋼を取り付けていく。男、女子供だろうと容赦はない。たちまち人の押し寄せる陸の港は阿鼻叫喚の巷と化し、最後の人間たちがいったん悲鳴をあげたと思ったら、カラクリ人間らが音速で改札を走り抜ける。さながらダービースタリオン。一着を獲った名誉ある人馬にはゼンマイ100回転が贈られ、名誉SEとして連続50000日出社を可能にさせている。さようなら名誉SE、彼に明日はない

 

  東京の人間は忙しなく動く。常に時間に追われている。職や利便性に捕らわれ、彼らは逃げ出すことができない。東京墓場。東京スカイツリーは東京に骨を埋めた人間への慰霊碑であり、湯水のように沸き続けるJ-POPは彼らに捧げる鎮魂歌である。東京で唯一容易に叶えられる夢がある。ゼンマイが外れる唯一の魔法、人間として最後の衝動。みな、夢を掴んで東京から消えてゆく。東京には夢がある