初音ミクの唸り

飽きたらやめます

陽炎

お天道様はご機嫌だった。時計は12時を指していて、熱々とした熱風と大地を踏み歩く刺激的なコスチュームに複雑な思いを巡らせていた。穏やかな真昼に川縁が現れ、おまけに控えめな人口池まで付随している。川と対になる形でほどよい長椅子に腰を掛け、いっぱいに夏を吸い込んだ。ドブ臭さがツンと鼻を掠め、一通りの幻想を偽りの走馬灯に映し終えた頃、文庫本を取り出しひどく真面目に読み漁ったのだが、小一時間で飽きがきて逃げるように川との相席を後にした。


少しばかし歩くと、いかにもマダムが好みそうなマンションの群れが顔を出した。側には人口的な緑と人口的な立体アート、人口的な街への入り口が続いている。サワサワと揺らめく葉は、私をより一層感傷的にさせた。生まれ育った要塞にも似たような景色を見た。今日はよく子連れとすれ違う。それはみな自分の幼少期と照らし合わせても、とても同じ人種とは思えない程、愛され、愛し合っていて、未来永劫同じ経験をできないことを知っていた。


人口的な獣道を抜けると、アメリカンでフラットな、閉鎖的でおもちゃのような世界が広がった。陽射しは強さを増し滑稽な街を更に滑稽にさせた。この街一番の美女はバービー人形に違いない。OLがパスタを巻いている。妊婦がマタニティトークに花を咲かせている。ここは一人一人が演者であり主人公なのだ。


もう進めなかった。全ての道は現実へと続き、それを構成する三色を宿した信号機と古びたアパートの外壁が、重く、ゆっくりと、幻想で固めた空間を打ち砕いていった。コテコテな人々は散り散りになり、辿った道をトボトボと歩み戻す。保育園を見つけた。保育園で現在絶賛増築中のプールは7月28日に施工完了するそうだ。未だ見ぬ園児の夏の思い出に心を馳せつつ、はじめの長椅子に会釈をした。