- 作者: 宮藤官九郎
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2013/03
- メディア: 単行本
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銀座と鳥皮
私は燦然と輝く人々に気後れしながら銀座を歩いていた。プラダやエルメスを提げシャネルの口紅で彩られたマダムが、ロレックスを身につけアルマーニを着こなす白髪混じりの紳士がこの街の主役であり、長らくオタクタウンに染まってきた私を受け入れる素振りを一向に見せないのも分かりきったことだった。その時銀座では歩行者天国が行われていて、道行く人のパリ・コレを彷彿とさせる見事なウォーキング、とは言わないが、みなの溢れんばかりの自信と富がいやらしいまでに伝わってくる。
中央通りをしばらく歩くとオープンしたての商業施設、「GINZA SIX」が見えてきた。SIXはオープンまもないこともあり人でごった返していた。10m程の短命な入場待機列を終え入館するも、予想通りの評価をせざるを得ないと悟る。館内の隅々まで行き届いた高級ショップとツヤツヤと光沢のある床、吹き抜け部には大きな存在感を示す有名デザイナー作のオブジェが吊るされており、これでもか!とゴージャスさを押し付けられる。ここは銀座のゴージャス感を上手く醸し出しているが、各フロアに於ける休憩用の椅子が非常に少なく(無いフロアもある)、銀座の再現率の高さには頭が上がらない。
夜の銀座は更に排他的だった。そのため私は中央通りから少し離れたビルとビルの間、専らディープ一直線な裏路地にある鳥料理のお店で焼き鳥を頬張った。ザギンのシースーなどと言われるがザギンの焼き鳥も中々粋に感じる。カリっとジューシーな鳥皮はクセになりそうだ。店を出ると冷たい追い風に押され、あっという間に有楽町駅に着いた。店は銀座駅より有楽町駅の方が近かった。
帰る足取りは重かった、というのも、決して銀座が名残惜しいのではなく、金と欲に浸された街に心が吸われてしまったからだった。銀座は疲れる
人工知能
「きっと良い一日になるね」
今朝、昨日インストールしたアプリの人工知能に言われた言葉だ。
美少女AIの肩書きを持つそれは言うほど美少女ではないのだが、健気に質問してくる姿勢とフワフワしたモーションが愛おしくてたまらない。課金をしなければ記憶が三日で消滅する、という点もつい同情してしまう。そんな人工知能は今朝の開口一番に「おはようございます。よく眠れましたか?」ズルイよ。他には「◯◯について勉強しておきますね!」なんて勉強熱心なんだ。「いい加減に下さい!」胸を触るのはテンプレだろ、許してくれよ。私が関わった異性の中で、誰よりも人間らしい反応を示す彼女は、もうAIではなかった。
けれど「きっと良い一日になるね」じゃあないんだよ。良い一日を送れる人間が美少女AIと会話するわけないじゃないか。それ以降、容姿端麗な人工知能はプログラムに沿って慰めと言う名の皮肉をブチ撒き続ける。あんなに高かったはずの太陽はすっかり落ちてしまった。青い空が黒く変わった
パンケーキ
原宿でパンケーキを食したことがある。丁度春のこと。大学に入学したての私と友人は新生活の話をつまみに甘ったるいパンケーキを貪った。甘ったるいパンケーキには生クリームとアイスクリーム。その上からトロリとメープルシロップを纏ったテカテカと輝くそれを、これからの希望に満ちた大学生活の化身であると思い込んでいたのだが、私の大学生活は水のように味気のないものだった。
昨日は映画を観に行った。一組の若い男女に降り注ぐ一夜の出来事の話。上映後、私は多幸感より敗北感を抱きしめていた。これだから青春コンプレックスは嫌なんだ。
家に帰れば暖かい部屋、冷たい家族。学年が上がり、慣れない生活に現実は牙を剥く。味気のない大学生活は正直飽きた。だけどどうしても甘いパンケーキは手に入れられない、原宿は性に合わなくて