初音ミクの唸り

飽きたらやめます

2003現在

ボロボロに破れた継ぎ接ぎだらけの障子から朝が射し込んだ。時刻は6時00分で、姉が素早く布団をたたんだ。私も急かされるように布団をたたんだ。ときには5時前に起こされ、テレビは試験電波を延々と発していた。二人は朝食も摂らず外へ飛び出し、ピカピカの自転車に跨った。風はなめらかに肌を撫でた。姉を追ってマンションの敷地の隅から隅まで駆け抜けた。全力で坂を下り派手に転けた私を介抱するのが姉の役目だった。自転車もほどほどにラジオ体操を終え、重いドアを開くと母が朝食を揃えていた。「ぴちぴちピッチ」の時間は過ぎていてテレビには「ミルモでポン!」が流れていた。2003年の夏は始まったばかりで、晴れて小学生となる2004年が待ち焦がれる。

手記 5/3

祖父母に会った。相変わらずエネルギッシュな祖母が開口一番、昨日の浅草紀行を語り始めた。父方の生家は風通しが抜群に良く、あたたかく若葉色の少し湿気おびたやわらかいいきおいが私を歓迎した。草木の脈動が常に耳をかすめ、祖母が浅草紀行を遥か彼方で囀っていた。ゆっくりと時間が流れた。トンカツ、天ぷら、刺身、煮物、味噌汁。あいにく手料理は煮物と味噌汁に限られたが、これが祖父母の最大限のもてなしであることは変わりなかった。適当な出来和えに心からの舌鼓をし、目に見えるほどの愛情を浴びながら馴染みの味噌汁をひとくち含む。感情が溢れた。プリン、シュークリーム、浅草みやげの人形焼。甘かった。畑は熱を帯びていた。幼少期に駆け回った土土には、夏に向けすくすくと育つ食物の生き生きとしたさまが一面に貼り付けられていて、私を盲にした。蜂が舞っていた蝶が舞っていた。木漏れ日が斑にこぼれ落ち、狂犬と戯れる小さい私の虚像を印象的に照らした。 芝生に咲く健気な花の名前を訊いたが忘れた。めっきり雲に覆われた青かった空に再訪の誓いを捧げた。我が家では温かい料理が私を出迎えた。ふつふつとした何かが一度澄みきった私の全てを覆い尽くすのを感じた。

小児性愛者

春爛漫、めでたく胸襟を開いて語る機会が激減した。コミュニケーションを取る相手はみな、長年培った常識的な回路で演算した模範解答を述べる。私は常識が欠落していて、ボキャブラリーに乏しく、トロいため、相手の表情を伺いつつ錆びた回路で演算しやっとの思いで導き出した呻き声をあげるが、おそらく期待にそぐわなかったようである。

 

孤独が押し寄せてくる感覚を味わう。見たこともない顔と言の葉を交わし合い、肢体を絡める。舌を絡める。ここに意思はなく、雑居ビルの一室、力なく回る換気扇から覗く五反田のネオンは退廃的な終末感を帯びていて、私の堕落をより決定的なものにさせた。

 

孤独が押し寄せてくる。動悸が高まる。将来への不安と、20年かけて築き上げた今がハリボテでしかないこと。アルコールが竹馬の友だと親に紹介。家庭環境が悪く還る場所がないこと。酒を入れて筆を進める。

 

孤独が押し寄せてくる。小児性愛者として早数年を駆け抜けた。これは人生の1/4を占めた。この異常思考を止めたことはなく、人生観、美徳に甚大なる影響を与え、真理に近づくと共に、とても気持ち悪い男が出来上がった。

 

春爛漫、今宵 アルコールに依存している

汚い男

  今日も夜が短い。老婆が高級車に轢かれる寸前の空間を切り取る。老婆と高級車は姿を消す。ブックオフ店内、汚い男の立つ空間を切り取る。ブックオフの汚い男が姿を消す。駅の改札前、icカードの取り出しにモタ付く女の立つ空間を切り取る。ムカつく女が姿を消す。路地裏、子供が楽しげにはしゃぐ空間を切り取る。楽しげにはしゃぐ子供が姿を消す。冷たく照り散らす太陽が浮かぶ空間を切り取る。冷たく照り散らす太陽が姿を消す。いずれも明日には姿を戻す。今日も夜が長い

色の無い

綺麗なものが好きで、透明なものが好きで

嫉妬と欲望がうずまく、今の文明に生きるうえで頭の良い人の思惑どおりに金を落とすことは避けられず、喜怒哀楽がまるっと金儲けに利用されている。祝うケーキも仲直りの花束も、気分転換のJ-POPも思い出の遊園地も。嫉妬で、欲望で金は動き、嫉妬で、欲望で生活をしている。

小さい頃は公園の土から発掘したすべすべの石や、人ン家の庭で勝手に捕まえたトカゲや、教室で拾ったデカいクリップが心を満たした。喧嘩してもごめんなさいでカタがついた。気の知れた仲間と外をかけ回れば気分転換など容易い。欲に塗れていない記憶はもう上書きされない。

特段、利用されるのが嫌なわけではない。私は金好きで欲深い。けれど、綺麗なものが好きだ。綺麗で、透明な、色の無い。願わくば無色透明になりたい、でも、本当のところ、私は有色透明がいい

悴んだ手

  イルミネーションに腰を下ろす。イルミネーションに街は彩られ、イルミネーションに人は成り果てていた。白色と薄い桃色の電飾は複雑に人と絡まり合い、永久的な共存の意向を固く表明している最中で、ひどく満足気に、さも、人であるかのように煌々と生命力を発揮していた。彼らは燦然と輝く四肢から淫靡なオーラを放つようにして生命源をかき集める。

   イルミネーションに腰を下ろした途端、彼らは忽ち輝くことをやめ、人に還ってゆく。光は消えた。目を眩ませるだけの物体しか残されていない。悴んだ手を揉んだ。寒空を風が泳いだ。

  ずっと遠く、遠く彼方に人の群れが見える。夜も突き返すほどの明るい光が水晶体を駆け抜けた。イルミネーションは今も輝いていたが少し虚ろに見えた